2012年4月4日水曜日

Anatomy Of Contradictions 201104 | Can Not Be Serious To Unveil The Reality Of Illusion


日本は、先進国の中でも際立って、土地に関する行政のレベルが低いように思うのです。

例えば、住宅地に関しては、快適な住環境を実現するのに有効な規制がほとんど無く、実態は小−大規模業者が無節操に住宅地を開発しているのですね。国土交通省では、以下のような「誘導居住面積水準」というものを定めているのですが、単なる推奨目標となっているだけであり、実際の住宅建設を何も規制するものではないのです。

  【家族人数に応じた面積(単位:平方メートル】

                  単身   2人   3人   4人
  誘導居住面積水準(一般型)   50    75   100   125
  誘導居住面積水準(都市型)   45    55    75    95
  -----------------------------------------------------------
  最低居住面積          25    30    40    50

地方で暮らす人々には理解し難いかもしれませんが、日本の都市部近郊では多くの人々が非常に狭い住宅に住んでいるのです。家屋だけの問題ではなく、宅地(住居区画)自体が非常に狭いのです。かつては今よりもユトリのある空間が存在していた筈なのですが、大量の労働人口が流入してきた高度経済成長期以降は、お下劣な不動産業者が利益を最大化すべく入手した農地や雑種地を細かく分割(分筆と言うのです)してきたのですね。例えば、以下のように柄杓(ヒシャク)と称される形状に区画(分筆)された住宅地というのが、都市部近郊には非常に多く存在するのですよ。


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一度細かく分筆された区画が、大きな区画に再統合されることはほとんど有り得ないのです。細かく分筆された各区画に一旦人々が居住してしまうと、居住者の死去で不動産が相続/売買されるタイミングや、老朽化した家屋を建て直すタイミングなどはバラバラとなってしまうので、隣接する区画を同時に購入して不動産登記区分を統合(合筆「ごうひつ」と言うのです)することは現実的に困難なのですね。

少し広い土地を入手した開発業者が、数棟から十数棟の住宅を同時に販売することもあります。これを多棟物件と呼ぶのです。この場合には、公道へのアクセスに必要な土地(私道)を複数の居住者が共有する為、益々土地の所有権が複雑に入り組むことになるのです。


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同一業者が販売する多棟物件は、各家屋の造形/色調/雰囲気がマズマズ統一されていますが、他業者の多棟物件の外観とは異なってしまいます。同じ町内に異なる業者が販売した複数の多棟物件が混在する場合には、町全体の景観も見苦しいものとなってしまうのですね。また、このような多棟物件は同一業者が同時に建築するので、各家屋の間隔が数十センチということも珍しく無く、将来に老朽化した家屋を個別に建替えることは困難だと思うのです。

一方、欧米諸国においては、住宅地域全体の価値を保全すべく宅地開発/住宅建設に関して様々な規制を設けている国が多くあります。(特に欧州では、「景観」についてもウルサイ国/地方が少なくありません。) 例えば、英国では新たな住宅地の開発だけでなく既存家屋� �建替えについても行政機関が厳しくチェックするので、中古住宅の流通量に比べて新築住宅の供給量は非常に少ないのです。大きな工場の跡地等を住宅地に転用するような場合、最低でも数十戸の家屋を建築するので、車道/歩道などを含む新たな(整然とした)町並みが出来ることになるのです。


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英国の場合、都市部にはフラットと呼ばれる高層アパートも少なくありませんが、郊外では適度な裏庭を付帯する戸建て家屋が一般的であり、築後100年を経ている家屋というのも珍しくないのです。つまり、所有権が個人に帰属しつつも、家屋/庭というのは街路や上下水道等と合わせて社会全体の財産であると認識されているのですね。経済学的には、社会資本とかストック等と定義されるのでしょう。ですから、ある時期(時代)に所有した個人/法人の一存で区画を変更したり奇抜な家屋に建替えたりすることが許されないのです。

「個人所有者が家屋を建替えない」という社会的合意があるので、英国で� �2世帯分以上の住居を連ねるセミ・ディタッチドと呼ばれる家屋も多く見られるのです。これでは、1世帯分だけを勝手に建替えることもできませんね。


地震や風水害等が少ないという条件はあるものの、一般的に欧米の家屋は堅牢に作られているので、100年以上使用されることも珍しくないのです。また、外観や内装の汚れ等は不動産の価値に大きな影響を与えないので、シッカリと作られた住宅の価格は築年数によって低下することも無いのです。

ところが、日本では、家屋の価値は築年数の多寡で大きく異なってしまいます。折込チラシの不動産広告では、「築浅!お買い得物件」などと宣伝されることもあるようですが、税法上は築後20年程度で資産価値をほとんど失ってしまうのですね。高度経済成長期の頃に急造された家屋の多くは、20年も経ぬ内に資産価値を失ってもオカシク無いほど見事な安普請なのですね。最近は高品質な住宅が増えたのでしょうけど、(大� �な災害に遭遇しなくても)欧米のように100年以上の使用に耐えられるとは思えないのですね。


「新しいモノが絶対に良い」という日本人の価値観も、中古住宅の価格に少なからぬ影響を与えているように感じます。多少の汚れやキズを見つけただけで、反射的に売価から相当額をマイナスする計算を行う人が多いのですね。同様の傾向は、中古車の価格等についても、欧米人と日本人の価値基準の違いを感じてしまいます。

無節操に開発されてしまった都市部近郊の住宅地は、既に行政側で手の施しようが無い状態ともなってしまいました。「利便性向上のために駅から延びるバス通りを拡幅したい」と多くの住民が希望しても、対象地域の地権者達との折衝に何十年も要するおバカな事になってしまうのですね。過去において、このように雑然とした状況を一掃できたのは、戦時 中の空襲や震災に伴う大火事などの不可抗力だけでした。唯一の例外は、1980年代後半の不動産バブル期に横行した"地上げ"でしょうか。(地上げも災難/不可抗力と言えるのかもしれませんが)

という訳で、地震や津波で壊滅的な被害を受けた地域においては、行政側が主体となって新たに魅力ある街を作ってもらいたいと思うのです。「快適な住環境=広い土地・家屋=高い住宅価格・賃料」という従来の先入観もひっくり返すように、斬新な発想を期待したいですね。


日本では、「(狭くても)住宅は一生に一度の買い物で大切な個人資産だ」と考える人が少なくありません。欧米では、人生の色々な局面に応じて住居を変えるという考えが少なくないのですね。米国では、就業環境の変化に合わせて居住地を変える人々が多く存在します。英国では、子供達を自立させた後の老夫婦が、閑静な場所の小じんまりとした住居へ移るということも少なくありません。また、日本では、公的な賃貸住宅=低所得者向けの劣悪・安普請という図式が当たり前だと考えられていますが、欧州などにおいては、快適/高品質/リーズナブルな家賃の公的賃貸住宅の割合も高いのです。

ですから、公的資金によって魅力的な住宅地を整備した後、賃貸での提供や使用権 だけの販売などで、街全体の価値を失わせないような管理体系を構築すれば良いと思うのですよ。勿論、長期に亘って使用できるよう堅牢な家屋を建築してもらわねばなりませんが。

...と、特に都市部近郊の住宅地における行政の無策と、その結果として現出した見苦しい状況や日本人の価値感などについて記してみました。まだまだ想うところは沢山あるのですが、他のカテゴリにおける土地行政についても様々な問題を感じているので、別の機会に整理してみましょう。

次回に続く・・・



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