第3節 「危機後」の日本経済を考える視点 平成21年度
年次経済財政報告
(経済財政政策担当大臣報告)
― 危機の克服と持続的回復への展望―
平成21年7月
内閣府
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第3節 「危機後」の日本経済を考える視点
本節では、第1節、第2節での検討を踏まえ、金融危機の後の世界経済、日本経済の姿を考えるに当たっての素材を提供する。国際的な資金の流れと金融セクターの構造変化、産業構造と競争力、政府の対応の三つの視点から議論を進めよう。
1 国際的な資金の流れと金融セクターの構造変化
最初に、世界的なネットの資金フローを規定する、各国における資金過不足の状況を確認する。次に、グロスの資金フローを点検し、各国の金融セクターがその需給にどう関与しているかを見る。その上で、各国の国内における金融セクターの位置づけを調べる。
(1)国際的な資金過不足と資金の流れ
今回の金融危機に先行したアメリカへの国際的な資金の流れの背景には、アメリカの経常収支赤字と我が国を含む他の主要地域の黒字の存在があった。また、さらにそうした世界的な不均衡は、各国国内における家計、企業、政府といった部門ごとの資金過不足(=貯蓄投資バランス)を反映したものでもあった。そこでまず、過去の金融危機の前後での各国の資金過不足の状況を振り返り、今回の危機に伴う変化の方向を探る。
●アメリカでは家計部門が資金不足に アメリカの経常収支は、83年以降、恒常的に赤字(海外部門が資金余剰)である。しかも、2000年代になって赤字幅が大きく拡大した。では、その裏側で国内各部門の資金過不足はどう変化してきたのだろうか。これについては、以下のような特徴が指摘で きる(第2−3−1図)。 第一に、80年代には企業が資金不足(=投資超過)であったが、S&L危機に伴いその縮小が観察される。S&L危機は、81〜82年及び86〜90年代初めの2回生じているが、危機前に企業の資金不足(投資超過)が拡大し、危機後に再び急激に縮小している。こうした動きの背景には、直接金融での資金調達の拡大による企業部門の金融機関借入に対する資金需要の低下がある。それに対して、金融機関が不動産向けなどのリスクの高い分野への投資を拡大していき、危機の発生によりバブルが崩壊したことで、銀行貸出が急速に縮小している。結局、危機後には、企業部門の資金過不足はほぼゼロで推移している。 第二に、政府部門については、97年頃まで資金不足の部門は政府のみとなっていたが、98〜2000年に資� ��余剰となった。ITバブルが崩壊した2001年以降、再び資金不足に転じ、翌2002年から、政府部門が大幅な資金不足に戻っている。 第三に、家計部門を見ると、99年から資金不足(投資超過)となった。その後、住宅投資の増加と、住宅価格の上昇に伴う消費の拡大を受けて、家計部門はしばしば大幅な資金不足となった。 こうした資金過不足の変化により、2000年以降、海外の資金は、家計部門の赤字と政府の財政赤字に向けて大量に流れ込む形となっている30。今回の金融危機は、こうした姿が持続不能になって生じたということもできよう。
●北欧では銀行危機後に民間部門が資金余剰に 次に、金融危機を経験した国の資金過不足の変化について、北欧の3か国の状況を簡単に確認しておこう(第2−3−2図)。 第一に、銀行危機が起きたのは、ノルウェーでは88年頃、スウェーデン、フィンランドでは91〜93年頃であるが、3か国とも、危機の発生前には民間部門の資金不足が拡大していることが分かる。そのため、経常収支も赤字となり、海外からの資金が流入している。 第二に、危機発生後には民間部門が資金余剰となり、スウェーデン、フィンランドでは政府部門が大幅な赤字となっている。ノルウェーは石油収入があるため、通常、財政収支は黒字であるが、92〜93年には赤字となっている。 第三に、94年には、スウェーデン、フィンランドで経常収支が黒字となり、その後は黒字基調となっている。一方、財政収支が黒字化するのは、スウェーデン、フィンランドでは98年であり、危機の終息後6年程度を要している。 このよ うに、アメリカ、北欧では、危機をはさんで、投資貯蓄バランス(資金過不足)が大きく変化していることが分かる。一方、日本でも危機を挟んで資金の流れに大きな変化があったと見られる。次に、日本について、どのような変化があったのかを振り返ろう。
●日本では金融危機後に企業部門が資金余剰に 日本では、これまで長期にわたって経常収支黒字を続けてきていることには変わりはない。それでは、日本の国内における資金過不足はどう推移してきたのだろうか。主な特徴を挙げると以下のとおりである(第2−3−3図)。 第一に、バブル崩壊の前後で構造変化が見られる。すなわち、バブル崩壊前には家計部門は大幅な資金余剰、企業部門は大幅な資金不足だったが、バブル崩壊後には、家計の資金余剰が� ��々に縮小する一方、企業部門の資金不足も縮小した。また、政府部門は88年から91年にかけては資金余剰であったが、バブル崩壊後には不足に転じている。 第二に、97〜98年の金融危機の前後でさらに変化が進んだ。家計部門は一時的に資金余剰を拡大させたが、その後は縮小の一途をたどった。また、企業部門は資金余剰に転じた。政府部門の資金不足は大幅に拡大し、その状態が長く続いた。 なお、2006年になると、バブル崩壊後の過剰債務圧縮がほぼ終了した企業部門の資金余剰が大幅に縮小する一方、財政再建がようやく進み始めて政府部門の資金不足も大幅に縮小した。
●一般に金融危機後は部門別の資金過不足が構造的に変化 以上のような各国における経験から、金融危機前後の資金過不足の変化につ いて、次のように一般化できると考えられる。 第一に、金融危機に先行するバブル期がある場合、民間部門(企業、家計)の支出が活発化し、資金余剰が縮小、あるいは資金不足が拡大する。他方、財政収支は好景気により改善し、資金余剰となりやすい。民間部門と政府部門のバランスで、財政の改善が相対的に小さければ経常収支赤字となり、大きければ黒字になる。 第二に、危機発生直後には、景気悪化や金融システムの問題に対応するため、財政収支は悪化する。また、民間部門が資金不足であった場合、景気悪化によりそれが縮小したり、あるいは資金余剰に転じたりする。 第三に、危機後しばらくしても、資金過不足の姿はもとには戻りにくい。まず、財政収支の改善に比較的長期間を要する。また、北欧や� ��本のように金融危機が大規模な場合、バランスシート調整に伴う投資不足により、民間部門の資金余剰が続く。 こうした経験を踏まえ、今回の金融危機が終息に向かったとして、アメリカの資金過不足はどうなるだろうか。財政再建に時間がかかる一方、家計のバランスシート調整にも時間を要し、家計は資金余剰が続く可能性が高い。その結果、経常収支の赤字幅が縮小することも考えられる。日本の輸出先市場としては、中国など新興国の内需への期待が高まるであろう。一方、日本は今回、バランスシート調整圧力が弱く、民間部門の資金余剰が比較的小さい。したがって、景気回復後は財政再建を着実に進め、国内の資金需給がタイトにならないよう注意する必要がある。
(2)金融セクターのプレゼンスと構造変化
以上は、いわばネットの国際的取引であるが、金融セクターの活動に焦点を当てるため、グロスの金融取引についても見よう。加えて、各国の国内における企業の資金調達の形態についても確認する。
●アメリカ、英国は、資本取引の規模が大きい まず、今回の危機前のグロスの国際的な金融取引の動向を確認しよう。最初に考えるべき疑問は、経常収支赤字国であるアメリカや英国は、資本収支は黒字で、ネットでは資金流入国であるはずなのに、世界の金融資本市場において、これらの国の金融機関の存在が大きかったのはなぜかという点である。その理由としては、米英の金融機関が、本国の資金によらない海外での取引に多く関与していたこともあるが、そのほかにも、ネット(収支尻)である資本収支に比べて 、グロス(資産、負債の両方の取引)の額が大きいことが挙げられる。主な経常収支黒字国である、日本、ドイツ、中国と、経常収支赤字国であるアメリカ、英国について比べよう。確かに、資本取引(フロー)額では、日、独、中では、輸出入額の大きさに比べて資本取引額が小さい。一方、米、英では、相対的に大きく、特に英国では資本取引額が輸出入額を大きく上回っている31。 資産・債務の残高(ストック)で見ても、日、独、中に対して、米、英が非常に大きいことが分かる。米、英では、海外からの資金によって家計の住宅や消費への支出や財政赤字がファイナンスされる一方で、巨額の資金の海外への流れが存在していた。こうしたことが、米、英の金融機関の国際金融市場での大きな存在の背景としてあったと考え られる。 第2−3−4図
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